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東京高等裁判所 昭和54年(ネ)1403号 判決 1982年10月28日

控訴人 株式会社大韓航空 ほか二名

被控訴人 国

代理人 和田衛、石川久 ほか四名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人らの負担とする。

事実

第一申立

控訴代理人は、「一原判決を取り消す。二控訴人らは、それぞれ被控訴人に対し、昭和四五年運輸省告示第七六号(昭和五〇年運輸省告示第三四〇号による改正後のもの)に規定する着陸料及びその他の使用料のうち、特別着陸料を除く着陸料(普通着陸料)及びその他の使用料を被控訴人に支払うことにより、運輸大臣が設置、管理する公共用飛行場を継続的に使用する権利を有することを確認する。三(予備的請求)(一)控訴人らは、それぞれ被控訴人に対し、昭和四五年運輸省告示第七六号(昭和五〇年運輸省告示第三四〇号による改正後のもの)及び昭和五〇年運輸省告示第三四一号に基く昭和五〇年九月分の特別着陸料として原判決添付別紙債権目録13、16、18に各記載の金員を支払う義務を負担していないことを確認する。(二)控訴人らは、それぞれ被控訴人に対し、昭和四五年運輸省告示第七六号(昭和五〇年運輸省告示第三四〇号による改正後のもの)に基く昭和五二年八月分の特別着陸料として原判決添付別表3の13、16、18の各II欄記載の金員及びこれに対する同III欄記載の支払期日の翌日から支払済みにいたるまで年一四・五パーセントの割合による延滞金を支払う義務を負担していないことを確認する。三被控訴人の反訴請求を棄却する。四訴訟費用は、第一、二審を通じて被控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

被控訴代理人は、本件控訴を棄却する、との判決を求めた。

第二主張

当審における新な主張につき、次のとおり附加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、添付債権目録、別表を含め、これを引用する(原判決六七丁裏下段末行の「DC」を「DC八」と改める。)。

一  (控訴人ら)

原判決五五丁表上段八行目の「解すべきである。」の次に行を改めて次のとおり加える。

「(五) 特例法附則第二項は、「この法律は、物価統制令の廃止とともに、その効力を失う。」と規定するが、財政法第三条は、憲法第八三条の財政民主主義ないし国会中心財政主義の要請に基くものであり、その適用除外の特例を認めた特例法は、戦後の極端な経済緊急事態のもとにおいてのみ有効であると解すべきであり、現在形式的に物価統制令が存在しているからといつて、その効力の存続を認めるべきではない。

もし、物価統制令が形式上廃止されていないため、特例法がなお有効であると解されるとすると、特例法が財政法三条の適用除外の特例を定めていることは、憲法第八三条に違反して無効であるといわなければならない。

二  (被控訴人)

原判決五六丁表下段八行目の「失当である。」の次に、行を改めて次のとおり加える。

「(五)(1) 憲法第八三条は、財政民主主義ないし国会中心財政主義の原則を宣明したにすぎず、財政法第三条が憲法第八三条の直接の要請によるものとはいえず、したがつて、特例法が財政法第三条の適用除外の特例を定めていることはなんら憲法第八三条に違反しない。

(2) 財政法第三条は、国が独占事業を営んでいる場合には、その事業料金等が国民の生活に大きな影響を及ぼすことがあることを考慮してその決定に国民の意向が反映されることが財政民主主義ないし国会中心財政主義の精神に沿うとの立法政策上の配慮に基き事業料金等を法律又は国会の議決によつて定めることとしたにすぎないから、特例法が財政法第三条の例外を定めることは、後法をもつて前法の特例を設けたものにすぎず、なんら憲法に触れるものではない。

(3) なお、本件特別着陸料の設定は、財政法第三条にいう「法律に基いて定められ」たものといえる。

すなわち、航空法第五四条の二第一項は「飛行場の設置者は、運輸省令で定めるところにより、公共の用に供する飛行場の供用の条件、その他業務の運営に関する事項について管理規定を定めなければならない。」旨定め、この規定は、同法第五五条の二第二項により運輸大臣が設置する飛行場に準用されており、航空法の右規定の委任を受けて航空法施行規則(昭和二七年運輸省令第五六号)及び空港管理規則(同第四四号)が定められ、本件特別着陸料は、運輸大臣が右空港管理規則第一一条に基き設定したものであるから、財政法第三条にいう「法律に基いて定められ」たものであるといえる。

第三証拠<略>

理由

当裁判所も、控訴人の本件主位的請求及び予備的請求は、いずれも失当として棄却すべきであり、被控訴人の反訴請求は正当として認容すべきであると判断するものであり、その理由も、次のとおり附加するほか原判決理由と同一であるから、これを引用する。

原判決一五丁裏七行目の「明らかである。」の次に、行を改めて次のとおり加える。

「控訴人らは、右のように財政法第三条の特例に関する法律(以下「特例法」という。)が同法附則第二項により廃止されているとはいえないとすると、特例法は憲法第八三条に違反すると主張するので検討する。

財政法第三条は、国の独占に属する事業の事業料金について法律又は国会の議決に基いて定めなければならない旨規定しており、同条が憲法第八三条の趣旨に沿う規定であることは明らかである。しかしながら、憲法第八三条ないしはその原則上、右のような事業料金について、必ず法律又は国会の議決に基いてこれを決定することを法律で定めることまでが要請されていると解することはできない。したがつて、右事業料金について法律又は国会の議決に基いて定めるよう立法することも、その適用除外の特例を設けることも、憲法上は自由であり、単なる立法政策の問題にすぎないというべきである。よつて、特例法を憲法第八三条に違反するとの控訴人らの主張も採用することができない。

よつて、原判決は正当であるから、本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 田尾桃二 内田恒久 藤浦照生)

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